評論

幻想の宇宙を描き、心に平和をもたらすアーティスト

エコール・デ・ルーヴル(ルーブル美術学院)教授/美術評論家員
エリック・モンサンジョン

 千珠氏の創り出す幻想的な空間は、観る者を夢の世界へと導きます。楽園ともいえそうなほど、幸福に満ちた世界。この色彩豊かでクリスタルのごとくピュアな空間の住人は、水辺を駆けるペガサス、地球の周りを回る美しいイル力、満天の星のなかを行進する精悍でエキゾチックな象たち、昇天する荘厳な龍、瞑想的なビジョンを以って描かれる虎などです。空想上の生き物も、実際に存在する生き物も、千珠氏のあたたかな視点からすべてが、平等に描かれています。

 作品からは一貫して「平和」を感じました。すべてを肯定するような優しさに溢れた世界は、現実世界を生きる私たちの心と見事に調和します。人類の平和、そして内なる魂の平和を願う、寛大なテーマを内包してい
ると思います。作品には、視覚的な題材ではなく心の奥底から湧き上がる感情や、うちに秘めた理想など、心象が表現されています。表面的な事柄や外観ではなく、別の次元の何かを捉えようとしているのではないでしょうか。極めてパーソナルな内面世界。それ故に生み出される空想的な生き物や意外なシチュエーション。またはそれらを宿す幻想の宇宙。これらが作品として具象化された時、誰もが理想とする世界であることに気が付きます。

 現代社会の様々な問題と困難によって、やせ細った心を治癒する、慈悲深き作品たち。
博愛的な感情も作品から読み取ることができ、千珠氏はまるで幸せを運ぶ魔法使いのようです。

 また、特筆すべきはたぐい稀なる色彩のセンスです。色選びや配色は非の打ち所がなく、世界観が統一されています。観る者の心に迫ってくるような色彩の表現からは、色の本質をよく捉えていることがうかがえます。素晴らしい色彩と描画を追っていくだけで、私たちはいとも容易く作品に心を奪われてしまいます。

 千珠氏の創作への姿勢を紐解く鍵は、自身の心を見つめることにあります。
一面に広がる様々な色は、感情の虹や無限の象徴など、人のあらゆる心理を体現しています。作品の美しさにこれほど魅了されてしまうのは、千珠氏の作品が心の深海 ―最も奥深くにある人の本質― へと繰り返し引き込むからなのです。それはまるで、巨大なピラミッドの奥に未知の居室を発見するかのような、奇跡的な体験といえるでしょう。

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